MRは2013年の65,752人から2024年 約45,000人へ — 製薬2大職種の年収と縮小の実相
製薬業界の中で「MR(医薬情報担当者 = 医師向けに医薬品情報を提供する営業職)」と「研究職」は、長らく薬学部・理系院生にとっての2大花形ルートでした。しかしこの10年で両者の構造は大きくねじれています。MR認定センター(公益財団法人 MR認定センター)が毎年公表している「MR白書」によれば、MR数は 2013年度の65,752人をピーク に、直近2024年度では 約45,000人前後 まで約30%縮小しています。一方で研究職は、オンコロジー(がん領域)・バイオ医薬品・希少疾患を中心に採用が維持、ないし一部企業では拡大方向です。
「製薬=安定・高給」というイメージは、少なくとも2026年時点では半分しか当たっていません。内資系の古いMR像(全国転勤・担当医師接待・長期雇用)と、外資系スペシャリティファーマのMR像(領域特化・数百人規模の少数精鋭・外資並みの年収カーブ)は、同じ「MR」という3文字で呼ぶのが雑に感じるほど別物になってきています。本稿では、MRと研究職の年収実勢・採用ルート・業界縮小の内幕・そして個人が取りうる選択肢を、公開データと各社の有価証券報告書ベースで見通しておきます。
MRという職種の年収構造 — 内資・外資で200〜400万円の勾配差
MRの年収は「平均値」で語るとほとんど意味がありません。内資系と外資系、そして領域(プライマリーケア/スペシャリティ)のどちらに所属するかで、30代後半の年収が 200万円から、場合によっては400万円以上 開きます。
内資系大手(武田薬品工業・アステラス製薬・第一三共・中外製薬・塩野義製薬 など)の新卒MRの初任給は概ね月給 23〜25万円 前後です。これに住宅手当・地域手当・営業手当・賞与(年4.5〜5.5ヶ月)が積み上がり、入社1年目の総年収は 420〜480万円 というレンジに収まります。ここまでは各社の採用公式情報と就活系の集計サイトで公開されている値がほぼ一致します。
問題はその先の傾きです。内資系大手の場合、20代後半で 550〜650万円、30代中盤で 750〜900万円、課長相当(エリアマネージャー)になれば 1,000〜1,200万円 というのが概ねの相場感になります。一方、外資系のオンコロジー系スペシャリティファーマ(MSD日本法人・ファイザー・ノバルティス ファーマ・AstraZeneca・日本イーライリリー など)では、同年代の年収が 800〜1,100万円、30代後半で1,100〜1,400万円 に届くことが珍しくありません。外資系の場合は基本給に加えて インセンティブ(目標達成度連動の賞与) の比率が20〜30%と大きく、その年の領域売上によって振れ幅が大きいのも特徴です。
| 年齢層 | 内資系MR(プライマリー中心) | 外資系MR(スペシャリティ中心) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 新卒1年目 | 約420〜480万円 | 約480〜550万円 | 初任給+1年目インセンティブ |
| 20代後半 | 約550〜650万円 | 約700〜850万円 | 外資は3年目で内資5年目を追い抜く傾向 |
| 30代前半 | 約700〜850万円 | 約900〜1,100万円 | オンコロジー領域は上振れしやすい |
| 30代後半 | 約800〜1,000万円 | 約1,100〜1,400万円 | 昇格の有無で大きく変わる |
| 課長相当 | 約1,000〜1,200万円 | 約1,400〜1,800万円 | エリアマネージャー・プロダクトマネージャー |
この表はあくまで市場感の中央値レンジで、各社の有価証券報告書で示されている「従業員の平均年間給与」と突き合わせるとおおむね整合します。たとえば武田薬品工業の2024年3月期有価証券報告書では全社平均年収が 約1,100万円台、第一三共が 約1,100万円前後、塩野義製薬が 約950万円前後 です。これらは研究職・開発職・管理部門を含む全社平均なので、MR単体で見れば若干下振れますが、「日本の大企業の中でもトップクラスの賃金水準」という位置づけは揺るぎません。
ここで見落とされがちなのが「内資系に残った方が生涯年収で負けるとは限らない」という点です。外資は給与カーブが急ですが、業績悪化時のリストラ(早期退職プログラム・領域撤退に伴う担当者整理)が内資より明確に頻度が高くなっています。内資系は昇給カーブが緩やかでも、退職金制度(勤続30年で1,500〜2,500万円相当)と企業年金が手厚いのが特徴です。年収ピークだけで比較するのは、長距離ランナーと短距離ランナーを100m走のタイムだけで評価するのに近いと言えます。
MRの年収に関する制度面で一点補足しておきます。MR認定試験(MR認定センター主催、年1回)に合格して MR認定証 を取得することが、現場活動の実務上の前提になります。認定試験自体は入社後の新人研修6ヶ月+受験というのが標準パターンで、合格率は近年おおむね 70〜80%台 で推移しています。未取得のまま現場に出ることは制度上は不可能ではありませんが、業界自主ルール(医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の運用)と採用医療機関の受け入れ実務上、ほぼすべての新卒MRは1年目〜2年目に取得する流れになっています。
研究職の年収構造 — 修士・博士で変わる初任給と天井
研究職はMRと別の論理で動いています。年収の傾きは比較的緩やかですが、代わりに 入口の狭さ が決定的に違います。
内資系大手の研究職新卒の初任給(修士修了)は月給 25〜28万円、博士修了で 28〜32万円 が標準的なレンジです。MRと比べると入口の月給差は数千円〜2万円程度しかなく、「研究職=高給」というイメージは1年目の時点ではあまり正確ではありません。差が開いてくるのは5年目以降で、主任研究員・リーダー格に昇格すると年収 800〜1,000万円 の世界に入ります。部長相当(ラボヘッド・プロジェクトリーダー)では 1,200〜1,500万円 台に届くケースもありますが、ここに到達する人数は各社で主任級の10〜20%と考えておくのが現実に近いでしょう。
外資系の研究職は状況がさらに変則的です。日本国内に大規模な研究所を持つ外資は限られていて(ファイザー・MSD・ノバルティス・AstraZeneca などは一部の研究機能を国内に置いていますが、創薬研究の中核は本国側)、日本の研究職採用枠自体が内資より狭くなっています。結果として、外資の研究職に入れる人数は全国で年間数十人規模にとどまります。入れれば年収は高い(博士新卒で 550〜650万円、5年目で 900〜1,100万円)ですが、そもそも椅子が極端に少ないのが実情です。
| 年齢層 | 内資系研究職(修士) | 内資系研究職(博士) | 外資系研究職 |
|---|---|---|---|
| 新卒1年目 | 約450〜520万円 | 約500〜580万円 | 約550〜680万円 |
| 20代後半 | 約600〜700万円 | 約650〜780万円 | 約750〜900万円 |
| 30代主任級 | 約850〜1,000万円 | 約900〜1,100万円 | 約1,000〜1,250万円 |
| 40代リーダー級 | 約1,000〜1,200万円 | 約1,100〜1,300万円 | 約1,200〜1,500万円 |
研究職年収に関しては、各社の有価証券報告書の「平均年間給与」の値がほぼそのまま参照可能です。中外製薬の2024年12月期報告では全社平均年収が 約1,200万円台 で、これは研究職比率が高く管理部門も少数精鋭という構造を反映しています。塩野義製薬・エーザイ・大塚製薬なども、全社平均で 950〜1,100万円台 のレンジに入ります。「研究職比率が高い企業ほど全社平均が高く出やすい」という読み方は、報告書を横並びで比較する上で覚えておいて損はありません。
もう一つ、研究職の年収を読むときに重要なのが 「昇給以外の上振れ要素がほぼない」 という点です。MRのようなインセンティブ制度は研究職には基本的に存在せず、論文・特許の貢献度が年次評価に反映される形で賞与に上乗せされる程度です。年収の予測可能性は高いですが、逆に言えば「個人の頑張りで短期的に年収を跳ねさせる」という選択肢は少なくなっています。長期のキャリア投資という意味合いが、MRとは本質的に異なってきます。
採用ルートと狭き門 — 新卒偏重の採用実務
製薬業界の研究職とMRは、採用ルートの設計思想がはっきり違います。この違いを理解しないまま「中途でも入れるだろう」と構えると、現実に跳ね返されます。
研究職 — 修士・博士のアカデミックルートがほぼ唯一の正面入口
内資系大手の研究職採用は、実務上ほぼ 新卒採用の1本 しかありません。修士課程2年次の夏〜秋のインターンシップからリクルーター接触・推薦・選考と進むのが黄金パターンで、各社の研究職採用枠は全社で年間 20〜50人程度 に絞られています(武田・アステラス・第一三共・中外・エーザイなどの公開採用実績を合算した概算)。
博士修了者の採用比率は企業により異なりますが、概ね 3〜5割 が博士号取得者、残りが修士修了者というのが近年の傾向です。外資系研究職は博士必須の枠がさらに多く、ポスドク経験者・海外アカデミア経験者が優遇されます。「薬学部6年制学部卒で研究職」というルートは、製剤研究(CMC)や前臨床の一部を除いてほぼ閉じている、と考えた方がいいでしょう。
中途採用はアカデミア→製薬のルートはあるにはありますが、特定の創薬テーマ(抗体医薬・核酸医薬・細胞療法・AIドラッグデザイン など)で業績が立っている人を狙い撃ちで採る構造で、いわゆる「転職エージェント経由の一般公募」で入るのは非常に難しいのが実情です。近年はスタートアップ(創薬ベンチャー)からの中途採用枠も出始めていますが、数としてはまだ限定的です。
MR — 新卒重視だが中途ルートも一定数
MRの採用は、新卒と中途の比率で言えば 新卒7:中途3 前後で推移しています(各社の採用計画公開値の概算)。新卒は薬学部出身者だけでなく、理系・文系問わず幅広く採用されている点が研究職と大きく異なります。英語力(TOEIC 600〜700 以上)・プレゼン力・医療領域への関心が採用評価の軸になります。
中途採用は、病院薬剤師・CRO(医薬品開発業務受託機関)出身者・異業種営業職の3系統が主なルートです。特に近年は オンコロジーMR・希少疾患MR の中途採用が拡大していて、「がん領域の医療機関担当経験がある30代」はエージェント市場でハイレートに扱われています。JACリクルートメント・エンワールド・リクルートメントインターナショナル・アポプラスキャリア など製薬業界特化のエージェントが、こうしたスペシャリティ領域の中途紹介で強さを発揮しています。
一点、業界内で常識化しているが外からは見えにくいのが、「若手MRの職務経歴書は外資系に非常に通りやすい」という事実です。内資系MRで3〜5年の経験を積み、主要製品の売上達成実績を持っていれば、外資系のスペシャリティファーマに年収150〜300万円アップで移籍するケースは多くなっています。これはMR労働市場全体が縮小している一方で、特定領域(オンコロジー・免疫・血液・希少疾患)の人材需要が旺盛という需給ねじれの結果です。
業界縮小トレンドの実像 — MR数は10年で約2万人減った
ここから先は、業界で働いている人でもあまり全体像を整理しないまま各社の発表を眺めているケースが多い部分です。MR数の縮小は「なんとなく聞いたことがある」から「数字で追える」に引き上げておきます。
MR認定センターの公表値では、日本のMR数は 2013年度末の65,752人 をピークに減少トレンドに入りました。2015年度 63,185人、2019年度 57,158人、2022年度 50,191人、そして直近の2024年度では 約45,000人前後 まで縮小しています。ピーク比で約30%の減少で、年間では毎年 2,000〜2,500人規模 のMRが業界から退出している計算になります。
この縮小は一社が大きく減らしたからではなく、業界全体で同時並行的に進んでいます。2015〜2024年の間に主要製薬各社が公表した希望退職・早期退職プログラム(主にMRが対象となったもの)を並べてみると構造がよく見えます。
- 2019年 アステラス製薬 早期退職 約700名
- 2020年 中外製薬 早期退職 約170名
- 2020年 ノバルティス ファーマ 希望退職 数百名規模
- 2021年 日本ケミファ 早期退職
- 2022年 大日本住友製薬(現・住友ファーマ) 希望退職 約250名
- 2023年 田辺三菱製薬 希望退職
- 2023年 協和キリン MR再配置
- 2024年 武田薬品工業 グローバル構造改革の一環としてMR機能縮小
(各社のプレスリリース・決算短信・労働組合資料の公開情報を集約。人数は初期計画ベース)
縮小の背景には、大きく3つの流れがあります。第1に、2018年の医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(厚生労働省通知) で、MRの医療機関訪問活動は「情報提供」に明確に限定されました。飲食接待・過剰なサンプル提供・適応外情報の提供といった旧来型の営業手法は事実上不可能になり、MRが「大量の人員で頻度を稼ぐ」モデルの費用対効果が急速に低下しました。
第2に、COVID-19以降のデジタル化の加速 です。オンライン面談・医療従事者向け専用ポータル(m3.com、MedPeer など)・ウェビナーが日常化したことで、1人のMRが担当できる医師数の上限が変わりました。少人数のMRで広いエリアをカバーできるようになり、必然的に総数が絞られました。
第3に、創薬のスペシャリティ化 です。1つの薬剤で何千万人もの患者に届く「大型プライマリーケア製品(高血圧・高脂血症・糖尿病 など)」の時代から、特定の患者集団に深くアプローチする「オンコロジー・免疫・希少疾患」の時代へ製薬各社のパイプラインがシフトしました。スペシャリティ製品は全国津々浦々の開業医に配るような販売モデルが不要で、全国数百人のMRで十分に回せます。結果、大型プライマリーケア製品を支えていた数千人規模の全国MR網が不要になりました。
厚生労働省の「医薬品産業ビジョン」(2021年公表)および製薬協(日本製薬工業協会)「DATA BOOK」の各年度版でも、この構造変化は業界全体の課題として明示されています。縮小は景気循環ではなく構造変化なので、今後も緩やかに続くと見ておくのが妥当です。
見落としがちな事実 — スペシャリティ領域のMRは逆に拡大し、報酬も跳ねている
ここが本稿の中で最も「業界外から見えづらいが、キャリア判断に直結する」部分です。
MR数全体は縮小していますが、外資系スペシャリティファーマのオンコロジーMR・希少疾患MR・血液領域MR は、この10年でむしろ人員を増やしています。MSD・ファイザー・ノバルティス・AstraZeneca・日本イーライリリー・アムジェン・ブリストル・マイヤーズ スクイブ などの日本法人は、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的薬・CAR-T療法・遺伝子治療といった新規モダリティ(=薬のタイプ)の上市に合わせて、領域特化MRの採用枠を拡大してきました。
このセグメントのMRは年収水準も独特です。内資系プライマリーMRの同年代年収が700〜900万円のゾーンにあるのに対し、外資系オンコロジーMRは30代中盤で 1,000〜1,400万円、課長相当で 1,500〜1,800万円 というケースが出てきます。製品単価が圧倒的に高く(がん領域の新薬は年間治療費が数百万〜1,000万円台)、1担当者あたりの売上責任額が大きいため、インセンティブの水準も跳ね上がります。
「MR業界は衰退している」という通説と、「オンコロジーMRは報酬水準がむしろ上がっている」という現実は、同じ業界内で並行して起きています。これを一枚の絵として理解できるかどうかで、20代後半〜30代前半のキャリア判断の解像度が大きく変わってきます。
研究職にも類似の非対称性があります。中外製薬・第一三共・アステラス製薬などの内資系でも、「オンコロジー領域の創薬研究」と「バイオ医薬品研究」は新卒・中途ともに採用枠が維持されやすく、一方で 古典的な低分子創薬の合成化学チーム は年々縮小しています。同じ「創薬研究」でも、モダリティによって中に入ってからのキャリアの安定度と昇給スピードが違うという事実は、院生が進路を決める時点ではあまり教えられない部分です。
キャリアの出口 — MR・研究職それぞれの第二幕
製薬業界の内部構造変化が激しい以上、「入った会社に40年いて定年退職」というモデルは、もはや標準シナリオではありません。30代・40代での転身先(キャリアの出口)を事前に把握しておくことは、業界内で長期戦を戦うための保険になります。
MRの出口
MRが40代以降に向かう現実的なルートは、大まかに4本あります。
第1が メディカルアフェアーズ / MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン) への転向です。KOL(Key Opinion Leader = 影響力のある医師)との学術ディスカッションを本業とするポジションで、MRのような売上責任は持たない代わりに医学的専門性が求められます。年収は課長級で900〜1,300万円、外資系では1,500万円以上も十分にあり得ます。
第2が 市場調査会社・コンサルティング会社 への転職です。ヘルスケア領域専門の市場調査ファーム(IQVIA、アクセンチュアのヘルスケア部門、EYパルテノンの製薬セクター など)は、MR経験者を領域知識の即戦力として採用するルートがあります。年収レンジは900〜1,500万円です。
第3が 医療機器・再生医療・デジタルヘルス 領域へのスライドです。MRで培った「医師へのアプローチと学術的な説明」というスキルは、医療機器営業・デジタル療法(DTx)の事業開発でそのまま通用します。この領域は製薬業界ほど成熟していないので、若いうちに飛び込むと役員ルートまで見えるケースもあります。
第4が CRO・SMO(治験施設支援機関) への中途入社です。CRA(臨床開発モニター)・PM(プロジェクトマネージャー)としての実務を経由して、将来的に製薬企業の開発職に再び入る「迂回路」として使われます。
研究職の出口
研究職の出口は、MRより縦に深いですが選択肢の数は少なくなります。代表的な4ルートはこうです。
第1が アカデミアへの回帰 です。大学・国立研究機関(国立医薬品食品衛生研究所・理化学研究所・医薬基盤・健康・栄養研究所 など)に教員・主任研究員として戻るパターンです。業績(論文・特許)が十分にある40代前後で選択可能になります。年収は産業界より下がりますが、研究の自由度は圧倒的に上がります。
第2が 創薬ベンチャー(バイオスタートアップ) への転身です。国内でも東大IPC・京大iPSアカデミア・PeptiDreamのような上場例が出てきた領域で、ストックオプションを含めた報酬設計は大企業のラボ長より高くなり得ます。失敗時のリスクは当然大きくなります。
第3が 規制当局(PMDA = 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) への転身です。審査官・専門官として新薬の承認審査や安全対策に関わるポジションで、公的キャリアとしての安定性と専門性の両立が可能です。製薬企業の開発経験者はPMDAにとっても貴重な人材で、中途採用枠が一定数あります。
第4が 製薬企業内の開発職(臨床開発・メディカルアフェアーズ・薬事) への横展開です。基礎研究から臨床開発に転身するのは業界内でよくあるルートで、「前臨床で見ていた化合物が臨床試験に進んだので一緒に移る」という形の人事は珍しくありません。この横展開は社内で完結するので、転職市場を経由しない静かなキャリア変更になります。
3つの選択肢 — どのルートが合理的か
ここまでの材料を踏まえて、個人の立場で取りうる選択肢を3つ提示しておきます。どれが正しいかは状況次第で、全部を同列に比べることには意味がありません。
(A) 新卒で外資系スペシャリティMRを狙う 薬学部6年制・理系学部卒で、語学(TOEIC 700〜800)と医療領域への関心がある20代前半に向いた選択肢です。新卒で外資系のオンコロジー・免疫・希少疾患領域のMRに入れれば、20代後半で年収 800〜1,000万円、30代前半で 1,000万円台 のゾーンに届きます。入社できる人数は内資MRより圧倒的に少ないので倍率は高いですが、長期の年収期待値は最も高くなります。リスクは業績連動性の高さと、外資系特有のリストラ・領域撤退リスクです。30代でメディカルアフェアーズや市場調査ファームへの転身パスも広く、総合点で最も合理性が高いルートと言えます。
(B) 修士で内資系のオンコロジー研究職を選ぶ 理系院生(修士・博士)で、長期に安定したキャリアと研究の継続を望むタイプに向く選択肢です。ポイントは 「オンコロジーもしくはバイオ医薬品の研究テーマを持つラボ」 を選ぶことです。古典的な低分子合成化学チームを選ぶと、入社後のラボ縮小・配置転換のリスクが高くなります。中外製薬・第一三共・アステラス製薬・塩野義製薬などは、オンコロジー / バイオ系の研究ポストを新卒・中途ともに維持しており、主任級で年収 900〜1,100万円、40代リーダー格で 1,100〜1,300万円 が現実的な着地点です。伸びは緩やかですが、40代以降もアカデミア回帰・PMDA・創薬ベンチャー への選択肢が残ります。リスクは入口の狭さで、修士課程1年目のうちから逆算して動かないと枠が取れません。
(C) 内資系MRからスペシャリティ領域へ中途で転身する すでに内資系大手のプライマリーMRとして5〜8年の経験があり、年収 600〜800万円 ゾーンで頭打ちを感じている30代前半に向く選択肢です。オンコロジー領域の医療機関を既に担当した経験があれば、外資系スペシャリティファーマの中途採用市場で年収150〜300万円アップでの移籍が現実的に狙えます。5年以内にメディカルアフェアーズに転向できれば、40代で年収1,200〜1,500万円のゾーンまで登れます。リスクは転職後の業績プレッシャーと、外資系特有の構造改革リスクです。「新卒時に外資に入れなかった人の現実的リカバリールート」として最も合理性が高いと言えます。
製薬業界は、縮小している領域と拡大している領域が同時並行で存在する、珍しいフェーズにあります。「業界全体のMR数」だけを見て製薬を諦めるのも、「平均年収1,000万円超」の見出しだけを見て楽観的に飛び込むのも、どちらも雑な判断になります。MR認定センターの年次統計・製薬協のDATA BOOK・各社の有価証券報告書を3年ぶんくらい並べて読めば、どの領域が伸びていて、どの企業の平均年収が本当に維持されているのか、相当解像度高く見えてきます。キャリアの決定はそのデータを見てから、というのが現時点で出せる最も穏当な答えです。
このページ下部の 診断ツール では、職種・年齢・所属区分(内資/外資)を入力すると、業界平均レンジに対する自分の想定年収の位置が確認できます。転職を視野に入れる前の「自分の現在地確認」として使ってもらえば十分役に立つはずです。
注釈と読み方の補足
- MR数の統計は MR認定センター「MR白書」各年度版を一次ソースとしており、本稿の2013年度末 65,752人 は同センター公表値です。直近2024年度の約45,000人は最新版 MR白書および業界報道の推計を総合した概算値で、最終確定値は MR認定センターの次回公表を参照してください。
- 年収レンジは各社の有価証券報告書(全社平均年間給与)・転職エージェント(JACリクルートメント・アポプラスキャリア等)の業界レポート・就活系の集計サイトを突き合わせた概算であり、個々の社員の実額とは当然ずれます。特に外資系のインセンティブ比率は年度業績で大きく揺れます。
- 本稿の「内資系」「外資系」の区分は本社所在地ベースで、中外製薬(ロシュ子会社)のように資本構造上は外資だが給与制度は内資型、といった中間的なケースは内資系に寄せて扱っています。厳密な区分は企業ごとに確認してください。
- 医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(2018年 厚生労働省通知)・医薬品産業ビジョン(2021年)は、厚生労働省のウェブサイトで全文が公開されています。業界構造を深掘りする場合は一次ソースにあたることを推奨します。
主な出典:
- 公益財団法人 MR認定センター「MR白書」各年度版(MR数・認定試験合格率)
- 日本製薬工業協会(製薬協)「DATA BOOK」各年度版
- 厚生労働省「医薬品産業ビジョン 2021」
- 厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(2018年通知)
- 武田薬品工業・アステラス製薬・第一三共・中外製薬・塩野義製薬・エーザイ 各社有価証券報告書(2024年度)
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)公表資料
- 各社プレスリリース・決算短信(希望退職・早期退職プログラムの公開情報)
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